トライボロジー論 課題レポート(6/21出題)

 

MQL・セミドライ加工

 

N大学大学院 S研究科

焙茶

 


1.はじめに

 1997年の地球温暖化京都会議での採択から7年、ロシア政府が批准した事により、2005年2月21日に京都議定書が発効された。現在では環境に対する負荷の低減が世界中で唱えられており、生産技術の現場においても、加工精度や高速・高能率化といった工作機械固有技術と並んで、省エネルギー設計・クリーン加工といった環境への配慮を目指すことが大きな課題となっている。

 生産現場における評価基準としては、環境レベルにおいて表1に示すような4つのレベルで対応が実施されつつある(1)

 

1  環境レベルと対策

作業環境

ドライ・セミドライ切削、省エネ対策、ミスト・粉塵対策、騒音防止対策、油圧レス、潤滑油レス、潤滑油レス、非切削加工時間の短縮

工場環境

空調設備の省エネ化、集中クーラント化、振動・騒音防止対策、電磁波ノイズ対策

地域環境

切りくず処理、油剤等の廃液処理、リサイクル化

地球環境

フロンなどの環境負荷物質の排除

 

 機械加工分野における環境対応技術は大きく省エネ、廃棄物低減、作業環境の安全・快適性確保に分類される。

省エネに関しては配管抵抗低減による切削油ポンプのダウンサイジング、油圧レス化などが上げられる。廃棄物低減の対象にも切削油が上げられ、各社で切削油のロングライフ化やリサイクル化などの取り組みが行われている。作業環境の安全・快適性確保の取り組みとしても切削油の塩素フリー化が上げられるなど、環境対応技術には切削油というキーワードが多く含まれている(2)

 ドライ・セミドライ切削はMQL(minimal quantity lubrication:極微量切削油剤供給方式)の概念のもとで産まれた工作形態で、切削加工における大幅な切削油剤の削減によって環境への負荷低減と生産コストの低下をめざすものである。切削油を大幅に低減できるMQL・ドライ加工技術は多くのの環境対応に共通する開発課題であり、多くの企業、研究機関が開発を行う大きな理由となっている。

本稿ではセミドライ加工に焦点を当て、MQLについて述べる。

 

2.セミドライ加工

 大量の切削油を使用する従来型のウェット加工と違い、セミドライ加工は極微量(毎時10ml程度)のオイルミストを使用して加工を行うものである。

 切削油の役割は潤滑、冷却、切りくずの排出である。セミドライ化を実現するためには、切削液を減少させることにより発生する工作機械の精度悪化、切りくず堆積による故障、仕上げ面品質悪化、工具磨耗・欠損の増加、溶着発生による工具寿命の低下などの課題を解決する技術確立が必要である。

 実際に切削加工のセミドライ化に要求される工作機械本体や周辺機器への配慮は以下の図のように示される(3)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


1  セミドライ加工の関連技術

 

 運動量の小さいオイルミストを切削点に供給するためにはスピンドスルー機構や高速回転継手機構が必要となる。また、大量の切削液を供給する従来のウェット加工と比較して、工具の形状や材質の影響が顕著になるセミドライ加工では工具に対する配慮も必要になる。他にも加工部位からの切りくずの排出性が格段に劣るセミドライ加工の場合、切りくずの排出を良好に保つための工夫が必要とされる。幅広い加工条件に対応可能な切りくず回収方式の開発、粘着性の低い切削液の開発など、多くの課題が残されている。オイルミストを使用することによる弊害の1つとして、ミストの浮遊による工場環境の悪化も挙げられる。ミストの回収率を高めるにはミスト回収装置のフィルタの精細化と吸引流量の増加が必要であるが、そのためには装置が大型化し、消費電力の増加も避けられない。ミスト回収機構もセミドライ加工に関連する重要な技術の1つである。

 

3.企業での取り組み

 以上のように実現には多くの技術を必要とするセミドライ加工であるが、環境への配慮や切削液へのコスト低減などから、各方面で研究が盛んに行われており、フライス加工や歯切り加工などでは実現に至っている。

 トヨタ自動車から地球環境対策とコスト競争力の向上の観点から自動車部品における歯切り(ホブ切り・ハイポイド歯切り)のドライ加工、穴あけ(鋼・アルミ)のセミドライ加工に取り組んだ報告がされている。トヨタ自動車の2003年の報告(4)では、高能率化が可能でコストメリットの大きいホブ切りや鋼の穴あけに関しては実用化できているが、アルミの穴あけは実用に至っていないとしている。また、その報告は、「ドライ・セミドライ加工を生産ラインの中で信頼性の高いコストメリットある技術まで高めていくには研究機関や工作機械・工具メーカー、およびわれわれユーザーとの連携、情報共有化がますます重要になっていくものと考えている」と結んでいる。

 

4.考察とまとめ

 以上MQLに取り組む理由とセミドライ加工について述べた。MQLとは環境への配慮と切削液へのコスト低減との両方を実現する概念である。しかし、セミドライ加工の初期設定には、多くの費用と人力を必要としそうというのが正直な感想である。利益の追求が根底にある企業としては大きな負担となるのは避けられないだろう。「ドライ・セミドライ加工を生産ラインの中で信頼性の高いコストメリットある技術まで高めていくには」のくだりからは、MQLにより切削液のコスト低減が期待されるが、まだまだ見合った利が得られないのが現状なのでは、と考えさせる。環境に対応すると、生産性を犠牲にする、とかコスト増加はやむをえないという考え方もある。しかし動力としての燃料使用の増加につながってしまえば、他の方面で環境への負担が増加している結果となる。それは環境に配慮した技術とはいえないものである。

企業の地球環境保全への対策は今後もますます高まっていくものと考えられ、MQLを初めとした環境保全型の加工への要求はさらに高まっていくだろう。ただ、それら実現には多くの費用と人力が必要になることは避けられない。もちろん企業任せにするのではなく、産官学の研究協力体制が今後さらに必要になると考える。

 

 

<参考文献>

(1)  幸田 盛堂:工作機械のトライボロジーと環境対策、トライボロジスト、46(7)、2001

(2)  山本 通浩:自動車部品加工における環境対応技術—アルミ部品のドライ加工、機械と工具、47(10)、2003

(3)  青山 藤詞郎:加工現場における環境対応技術--セミドライ加工技術の動向、機械と工具、47(9)、2003

(4)  吉村 博仁:自動車部品のドライ・セミドライ加工、機械と工具、45(7)、2003